「感動」が時間を止める――Awe(畏敬)体験と“Small Self”の脳科学

結論

私たちは日々、時間に追われていると感じます。効率化を意識しても、焦りが消えるとは限りません。もし、この加速する時間を止めるように感じさせる方法があるとしたら、その手がかりの一つがAwe(畏敬)――畏敬の念です。

大自然や芸術を前にして、言葉を失うほど感動する瞬間があります。原稿で紹介されている研究では、Aweは脳の処理モードや時間の感じ方に関わる可能性が示されています。

なぜ、感動すると時間が止まったように感じるのか

研究では、壮大な自然や宇宙の映像を見た人と、楽しい出来事の映像を見た人の心理状態が比較されました。Aweを感じたグループでは、「時間が十分にある」と感じ、焦りが低下していました。

その背景として、Awe体験によって、普段の「次に何をするか」「この後どうなるか」という予測への集中が一時的に弱まり、目の前の体験に注意が向く可能性が考えられます。

想像を超える光景を前にすると、一瞬が濃く、長く感じられる。感動したときに「時間が止まったようだ」と感じるのは、こうした注意の向き方と関係しているのかもしれません。

「私」が小さくなることの、意外な効用

Awe体験では、Small Self(小さな自己)と呼ばれる感覚が生じることもあります。広大な星空や大聖堂を見上げたときに、「自分はちっぽけだ」と感じるような感覚です。

これは、必ずしも自己否定を意味しません。普段の「私はどう見られているか」「私は正しいか」といった自己への注目から、いったん距離を取る感覚として捉えられます。

原稿では、このとき脳のDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)、とくに自己言及に関わる活動が静まる可能性が説明されています。Aweによって自意識が一時的に弱まり、自己へのとらわれから解放されたように感じることがある、という見方です。

Aweは、日常の中でも起動できる

Aweを感じるために、毎回特別な場所へ行く必要はありません。研究では、週に1回、15分の「Awe Walk(畏敬の散歩)」でも変化が確認されています。

やることはシンプルです。

初めて見るような目で、世界を見る。

  • いつもの道の街路樹を見上げる
  • ビルの隙間を流れる雲を眺める
  • 足元の小さな植物に目を向ける

この実験に参加した人たちの自撮り写真には、時間が経つにつれて、自分が写る割合が小さくなり、背景が大きくなる変化も見られました。Small Selfは、感覚だけでなく、行動にも表れるのかもしれません。

まとめ:感動は「消費」ではなく「回復」

私たちは、何かを得るために急ぎがちです。けれど、成果を積み上げる時間とは別に、心を打たれる時間も必要なのかもしれません。

スマホ越しに短時間で絶景を眺めるだけでは、Aweを感じにくいこともあります。立ち止まり、見上げる。そんな時間が、焦りから少し離れ、時間の感じ方を見直すきっかけになりそうです。