ある日突然、任されていた仕事から外される。それだけでも十分につらいのに、追い打ちをかけるように「自分に何ができるのか」「自分の強みは何なのか」がまったく分からなくなることがある。この記事では、その状態がなぜ起こるのかを脳科学の視点から解説し、強みを見つけ直すための具体的な視点を紹介する。

この記事でわかること

  • 仕事を外されたときに強みが見えなくなる脳科学的な理由
  • 限界を超えて働き続けてしまう心理的な仕組み
  • 強みを探すために今日から使える3つの視点

仕事を外されるとは

仕事を外されるとは、これまで任されていた役割や業務を、本人の意思とは関係なく取り上げられることだ。単なる異動や配置転換と違い、多くの場合「評価された結果としての変化ではない」という感覚を伴うため、通常の人事異動よりも心理的なダメージが大きくなりやすい。

なぜ強みが見えなくなるのか

限界を超えた状態が判断力を奪う

人は慢性的なストレス下に置かれると、判断・計画・自己認識をつかさどる脳の部位である前頭前野の働きが低下することが知られている。心理学者クリスティーナ・マスラック(Christina Maslach)によるバーンアウト研究では、燃え尽き状態にある人は自己評価が著しく歪み、「自分に何ができるか」を正確に把握できなくなることが指摘されている。

私自身、依頼される仕事を次々と受け続け、途中で「これはもう続けられない」と分かっていながら止められなかった経験がある。限界を超えて仕事を引き受けている間は、頭の中が「今日をどう乗り切るか」でいっぱいになり、自分の得意・不得意を振り返る余裕は完全になくなっていた。振り返る余白そのものが失われていたのだと、後になって気づいた。

関連書籍:『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』(ジョナサン・マレシック著、吉嶺英美訳)には、燃え尽きに至る仕組みと、そこから抜け出すための考え方が詳しく書かれている。

多くの人が誤解していること

強みが見えなくなったとき、多くの人は「自分には強みがないからだ」と考えてしまう。しかし実際には、強みが消えたのではなく、限界を超えた状態が続いたことで、自分を正しく評価する脳の機能が一時的に働きにくくなっているだけのケースが多い。強みの有無の問題ではなく、今それを見る余裕があるかどうかの問題だと捉え直すことが出発点になる。

「外された」というショックが自己認識を歪める

仕事を外されるという出来事は、脳にとって社会的な拒絶に近い刺激として処理されると考えられている。社会的な痛みは身体的な痛みと同じ神経回路(前帯状皮質)を活性化させるという研究報告もあり、これが「自分には価値がないのではないか」という極端な自己評価につながりやすい。

脳科学が示す、強みを見つけ直す3つの視点

視点1:「できること」より先に「したいこと」を問い直す

強み探しでつまずく人の多くは、「何が得意か」から考え始める。しかし限界を超えて働いていた状態から抜け出したばかりのときは、そもそも自己評価が歪んでいるため、得意・不得意の判断自体が当てにならない。心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した自己決定理論では、人は自律性、つまり自分で選んでいるという感覚を持てることに強く動機づけられるとされている。「何が得意か」より先に「本当は何がしたいのか」を問い直すほうが、歪んだ自己評価に振り回されにくい。

関連書籍:『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(エドワード・L・デシ、リチャード・フラスト著)は、この自己決定理論をわかりやすく解説した一冊。

視点2:第三者の言葉を記録する

自己認識が歪んでいるときほど、他者からの評価は貴重な情報になる。過去に「助かった」「頼りになった」と言われた場面を、誇張せずそのまま書き出してみる。自分の内側から評価しようとするのではなく、外側からの視点を材料にすることで、歪んだ自己評価を補正できる。

関連書籍:自分の強みを客観的な指標で整理したい場合は、『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版』(トム・ラス著)の資質診断を材料にするのも一つの方法だ。

視点3:結論を急がない

自分がしたいことがまだ分からない、という状態を「答えが出ていない失敗」と捉えないことが重要だ。強みや目的の探索は、性急に結論を出そうとするほど、かえって視野が狭くなることが心理学の研究でも示されている。今はまだ模索中でいい、と保留にする姿勢自体が、次の視点を見つけるための余白をつくる。

実践するためのポイント

今日からできること

まず、これまで周囲から「助かった」と言われた場面を、思い出せる範囲で3つ書き出してみる。分析や結論は不要で、事実をそのまま並べるだけでいい。

習慣にするためのコツ

週に一度、5分でいいので「今週したいと感じた瞬間」を記録する。これを数週間続けると、自分でも気づいていなかった方向性が少しずつ見えてくることが多い。

よくある質問

Q1. 仕事を外されたことは、自分の能力が低いという意味ですか? 必ずしもそうとは言えない。組織の事情やタイミングなど、本人の能力以外の要因が関わっていることも多い。

Q2. 強みがまったく思いつかない場合はどうすればいいですか? 自分ひとりで考えようとせず、周囲から過去に言われた言葉を集めることから始めるとよい。

Q3. 「したいこと」が分からないまま時間が過ぎるのは問題ですか? 問題ではない。模索する期間があること自体が、次の選択の質を上げることにつながる。

参考

  • Maslach, C., & Leiter, M. P. (2016). Understanding the burnout experience: recent research and its implications for psychiatry.
  • Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation.

まとめ

仕事を外された直後は、自分の強みどころか「したいこと」さえ見えなくなるのは自然な反応だ。焦って結論を出そうとせず、まずは限界を超えていた状態から少しずつ回復し、他者の言葉を材料にしながら、視点を一つずつ集めていけばいい。